メンズバック&アクセサリー

07.12.19 UPDATE

美しさとクオリティで世界の頂に立つ手縫い鞄の白眉

 ただ1つの鞄を作るにも、考えに考え抜き、徹底的に作り込んでいく。自らに厳しくあることをいっさい拒まぬその姿は、まるで「クオリティ」という名の絶対神に仕える求道者のようだ。結果、出来あがる鞄は細部まで美しく、すべてにおいて破綻なく完璧なのである。
  フジイの代表、藤井幸弘氏は趣味だった鞄作りの腕前を見込まれ、某鞄メーカーに転職。1985年に独立して東京・国立市に工房を開き、その10年後に現在の渋谷に拠点を移している。だが、その独立から今日までの藤井氏の苦労は並大抵のものではなかったであろう。
  職人という立場は普通、あらゆる面でたえず妥協を強いられる。よりよいものを作りたいと願っても、予算や時間が許さない。しかし「クオリティ」の信望者たる藤井氏はいたずらに妥協せず、じっくりと鞄作りに向き合える環境を自らの手で作り上げた。門外漢には理解しづらいが、このことだけでも実は大変なことであるに違いない。そして、この環境を実現するために藤井氏が過去に打ち捨ててきたものも少なくはなかったはずだ。
  ところで藤井氏が鞄作りで最重視しているのは"鞄の表情"なのだそうな。一見、普通に見えるが、きれいでバランスがいい。そのうえ、耐久性に優れ、使い込むとヤレて傷んでも味が出る。そんな鞄を作るべく、デザインを練りに練り上げ、素材を厳格に選定し、手間暇を惜しまず仕立て上げる。結果、フジイの鞄は世界でも類をみない高次元の領域に達し、それを我が物にしたのである。
  そこでセミオーダーサンプルの新作であるラウンドボトムのフラップブリーフケースを例に、そのクオリティの検証をしてみよう。
  このモデルは手提げはもちろん、クラッチングも可能な薄マチのソフトブリーフケースとして藤井氏が企画したものだ。しかし、一般的なジャバラマチにすると使い込んでヤレた際、胴の左右が伸びて著しく型くずれしてしまう。そこでそれを回避するため、本品ではフラップ→後胴→底マチ→前胴を一枚革で仕立て、その底マチに丸みをもたせている。加えてその革に、贅沢にも薄く漉いたボックスカーフで裏打ちを施したうえで、柔らかく摩耗に強いキッドスキン(仔山羊革)をライニング。結果、写真からもおわかりのように、フラップや胴に強い張りのある、穏やかな曲線美と豊かなプロポーションの鞄ができあがった。なお、外装には独ペリンガー社のバファローカーフを採用したタイプと、同じくそのペリンガー社から特別に取り寄せたボックスカーフを用いたタイプがあり、写真はその後者となる。また、この丸い底マチにはクラッチの際、手に心地よくフィットするというメリットもある。
  次にハンドルを見てみよう。これは未使用時にフラットにできるスライド手と呼ばれるタイプで、一般的には「手提げもできますよ」といった付属的部位とされ、華奢に作られている場合が少なくない。しかし本品では外装はもとより、内部にもジャーマンボックカーフを使用。しかもその革を漉き、そこにコットン地を重ねて縫い付けて作った芯材により、長く使ううちにハンドルが伸びるというトラブルを防いでいる。また、ハンドルがループ(定革)から抜けるのを防止するため、そのループを三つ折りにした革の中にコットン帆布を入れて縫合することで、すこぶる堅牢なものにした。結果、スライド手ながら手提げで使用しても加重に十分に耐えるだけの堅牢性が備わったのである。
  そのハンドルやフラップ、胴などのコバは切り目仕立てだが、芯材やライナーを外装の革(表革)よりもわずかに小さい寸法にしたうえ漉き入れしてあるため、表革の裁断面のみがコバになるという工夫もなされている。しかも、その切り目のコバをやや丸みをつけてカンナがけした後、「ヤスリがけ→色付け→布海苔(ふのり)磨き」を何度となく繰り返し施してある。今日、切り目のコバには短時間で仕上がる化学系コバ処理剤が使われるのが一般的だが、これだと負荷の大きい個所が弱って剥離しやすい。いっぽう、日本独自の伝統技術である布海苔磨きは耐久性があり、見た目に美しく仕上がるが、仕上げにすこぶる手間を要するため、現在ではほとんど製鞄に利用されなくなった。だが、フジイでは独自に布海苔を購入し、それを煮出したものを使用。ここまで徹底しているのは、フジイをおいてほかにないかもしれない。
  ところで、フジイの鞄は基本的に100%ハンドソーンである(柔らかい革などは機械縫いのほうが美しく仕上がるため、ミシンを使用する)。もちろんハンドソーンなら全てよしというのではない。技術が不十分なら、ミシンステッチのほうがよほど丈夫で、きれいに仕上がるのだ。だが、フジイの手縫い技術は格別である。フランス産の蜜蝋を塗布したアイルランド産の麻糸を使い、2本の針で∞字を描くように縫っていくのだが、その際、革のクセや表情を読みながらひと針ごとに糸絞めするため、美しく堅牢に仕立てることができるのである。しかも、たとえカーブでも破綻なく、あくまでピッチが均一であるなど、その技術の高さに圧倒されるのだ。
  語るべきことはほかにもさまざまあるが、くどい解説はここまでにしよう。ただ、これでフジイの鞄の超絶ぶりの一端がご理解いただけたのなら嬉しい。
  ところで己の仕事に完全主義を求め続ける藤井氏だが、接するに恐れる必要はない。人に対しては、あくまでおしゃべり好きの温和な紳士である。自らに厳格な人は、おうおうにして人には優しいものだ。だからなのか、藤井氏の鞄にはある種の厳しさと一緒に、どこか温もりが感じられるのである。

文:山田 純貴 写真:綿屋 修一

FUGEE(フジイ)

■鞄のセミオーダーの概要
受け付け店: 藤井鞄 東京都渋谷区鴬谷18-8 亀山ビル1F(12:00〜20:00 木曜定休)
ベーシックデザイン: ダレスバッグ、スリムダレスバッグ、フレームトップバッグM、フレームトップバッグL、フラップオーバーブリーフケース・スチューデントタイプ、フラップオーバーブリーフケース・ラウンドボトムタイプ(写真)の計6型
外装素材: 蝋引きレザー(6色)、バファローレザー(4色)、ジャーマンボックスカーフ(2色)の他、デュプイ社やアノネイ社などのフレンチボックスカーフなど。なお、以上の常備素材の他は取り寄せとなる ※デザインによりお薦めの素材は異なる
縫製糸: アイルランド産麻糸使用。カラーバリエーションあり
内装素材: バリエーションあり。応談
錠前: オリジナル真鍮キャスト無垢製の丸型一段錠、またはオリジナルシルバー923キャスト無垢製の角形一段錠。他に各種バックルなど用意
インポケット追加: 可(ただし、不可の場合あり)
仮縫い: なし
製作期間: 6カ月〜12カ月
価格: 34万6500円〜 ※いずれもオプション選択などでアップチャージとなる

■写真のセミオーダーサンプル用ブリーフケースの概要
アイテム: フラップオーバーブリーフケース・ラウンドボトムタイプ
モデル番号: KM39
販売形態: セミオーダーによる受注生産・販売、または既製オーダーサンプルの販売
サイズ: W39×H28×D6cm
外装素材: 独ぺリンガー社製ボックスカーフ(写真)。同型・同寸で独ペリンガー社製バファローレザー製もあり
外装カラー: ボックスカーフ製はチョコ(写真)。他に同素材でブラックあり。バファローレザー製はブラック、チョコ、ワイン、ネイビーなど
内装素材: 国産キッドスキン
錠前: オリジナル真鍮キャスト無垢製の丸型一段錠(写真)。他にオリジナルシルバー925キャスト無垢製の角形一段錠もあり
収納部: 1室構造(オプションでインポケットなど追加も可)
価格: セミオーダーの場合、ボックスカーフ製42万円〜、バファローレザー製38万8500円〜 ※いずれもオプション選択などでアップチャージとなる
既製オーダーサンプル購入の場合、ボックスカーフ製(写真)37万8000円、バファローレザー製34万6500円

なお、フジイではフルオーダーメイドの製作も可(期間2年半〜)

お問い合わせ:

フジイ(藤井鞄)
TEL.03-5489-2279