メンズシューズ

08.05.31 UPDATE

英国の老舗がイタリアのコードバン(!)で作ったアメリカ風Wチップ

 この靴のインポーターであるGMTによるリリースを読んでいたら、興味深いことが載っていました。トリッカーズ(1829年、ジョセフ・トリッカーズ氏により創業した、現存する英国ノーサンプトン最古のシューメーカー)がプリンス・オブ・ウェールズ、すなわちチャールズ皇太子のご愛顧賜る英国王室御用達であることはよく知られていますが、その指定を受けたのは20年ほど前で、きっかけは故ダイアナ皇太子妃だったというのです。しかも、なんとダイアナ妃の故郷は皮革と靴の聖地ノーサンプトン! だからなのでしょうか、彼女はトリッカーズの愛用者だったらしく、同社のルームシューズを夫に薦めたところ、皇太子もたいそう気に入り、これを機にトリッカーズはロイヤルワラントを授かることができたんだとか。皇室御用達を指定されたのはさほど昔ではなかろうとは思っていましたが、ダイアナ妃がらみでだったとは驚きました。
 前口上はこれくらいにして、そのGMT別注による新作ウイングチップのご紹介です。
 これは去る4月17日に東京・代々木上原にオープンした、GMT社の直営店「バーニッシュ」のオープン記念として、同店限定で販売されているフルブローグです。いわゆるダービー(外羽根式の短靴のことです)で、このタイプは英国ではオックスフォード(内羽根の短靴です)よりカジュアルとされるわけですが、事実、このモデルもブリティッシュカントリーシューズの伝統を今に伝える、あの有名な「カントリーコレクション」にカテゴライズされています。とはいえ、トゥチップの両ウイングが後方に長く伸びた、このロングウイングチップのデザインは普通、英国のシューメーカーの定番商品には見受けられず、これはトリッカーズも同様。実はこのグラマラスなデザインはアメリカンブローグと通称されるとおり、アメリカンシューズのオーセンティックなパターンで、筆者などはこのタイプの靴を見るたびに"歴代米国大統領の靴"なるイメージが頭に浮かぶのです。
 それでもトリッカーズでは昔、この種のタイプを製作したことがあったようで、GMTはそれをもとに、数年前からトリッカーズとプロトタイプを製作してきたのです。奇しくもトム・ブラウン(今、話題のNYのファッションブランドです)もトリッカーズにアメリカンブローグを作らせ、GMTに先んじてリリースしましたが、要は両者ともに昨今のアメリカンファッション回帰のトレンドを受け、こうしたトラッドなアメリカンブローグを発表したのでしょう。
 ところで写真のモデル、注目すべき点がもうひとつあります。実はアッパーにこれまた、アメリカの伝統的な靴素材であるコードバンを採用しているのですが、そのコードバンがなんと、イタリア製だというのです! コードバンは現在、オールデンで有名な米シカゴのホーウィン社、および姫路の新喜皮革の2社でしかなめされておらず、専門加工メーカーも日本に数社あるのみと聞いてましたし、雑誌などで筆者もそんなことを書いてきました。ですから、いきなりイタリアのコードバンといわれ、本当にビックリ。GMTの小島部長のお話によると、原皮の生産地もタンナー名もなめし法も一切教えてもらえないとのことで、詳細は不明。この靴はバーガンディのみの展開なのですが、これを見る限り、ホーウィンのものより赤みが少ないようです。しかし、それ以外には特徴がうかがえず、謎は深まるばかり(?)です。まぁ、イタリアにはタンナーがいっぱいあるので、このところのヨーロッパでのコードバン人気(これもアメリカンファッション人気の影響でしょう、きっと)を受け、この革の製革を始めたものかもしれません。なめしからなのか、日本からなめし済みの革を仕入れ、それに加工を施したものなのかはわかりませんが、トリッカーズのみならずアルフレッド・サージェントもこのイタリアンコードバンの採用を検討しているとのこと。いずれ"正体"もはっきりすることでしょう。
 というわけで、出自不明のミステリアスでレアなイタリアンコードバンが採用された、このアメリカンブローグ。「カントリーコレクション」の1モデルだけに、大きな親穴のメダリオンやパーフォレーション、ロングピッチのピンキング(ギザ飾り)、ヒールまわりにまで施されたグッドイヤーのアウトステッチ、雨の浸入を防ぐストームウエルト、厚さ1.2cmのダブルソール、大ぶりだが安定感のあるヒールリフトなどなど、カントリーシューズのディテールもしっかり生かされ、しかもそれらがアメリカンスタイルのこの靴をよりいっそうグラマラスなものに見せています。スーツやジャケパンスタイルにマッチするのはもちろんですが、GMTによれば、この靴をショートパンツやロールアップパンツといったアメカジ的な着こなしに合わせて履きこなして欲しいとのこと。つまり軽快なスタイルに、あえて迫力たっぷりのこの靴をコーディネートし、足元のボリューム感を強調する。これが"今の気分"ということなのでしょう。

文:山田 純貴 写真:平野 多聞

アメリカンブローグとはフルブローグ(メダリオンなどのブローギングが施されたウイングチップシューズ)でウイングチップ両端がヒールまで伸びた意匠のダービーの通称だ。

「カントリーコレクション」の代表モデルであるフルブローグのダービーやブーツと比べややスリムなプロポーションゆえ、昨今のアメカジスタイルともバランスよくマッチする

素仕上げのレザーソールやオープントラック(出し縫い糸とチャネルを隠さず仕立てた仕様のこと)はトリッカーズらしい意匠。安定感あるヒールリフトは3.3cmとやや高めだ

TRICKER'S(トリッカーズ)

アイテム:ロングウイングチップダービーシューズ
コレクション名:THE COUNTRY COLLECTION(カントリーコレクション)
モデル名:RICHARD(リチャード)
品番:M5164
製法:グッドイヤーウェルテッド(オールアラウンド仕立て。スームウエルト採用)
アッパー:コードバン(イタリア製)
ソール:ダブルレザーソール(オープントラック仕様)
カラー:バーガンディのみ
その他:BURNISH(バーニッシュ)別注限定モデル
価格:9万6600円 ※同型でスコッチグレインレザー製(ブラック、エスプレッソの2色展開。7万2450円)もあり

お問い合わせ:

バーニッシュ TEL.03-3468-0152
http://www.burnish354.com