メンズシューズ

08.06.27 UPDATE

日本初上陸! ビスポークで培った超絶技で圧倒する
靴の聖地マルケ発の"最後の大物"

 イタリア中部マルケ地方はワインやオリーブオイルが特産で、古くから製革産業も盛んです。ということは、水資源が豊かな土地ということですね。そして、そうした皮革産業に合わせてシューメーカーが多く集まっているのはイギリスのノーサンプトンに共通しています。もっともノーサンプトンの靴産業は勃興期が19世紀であるのに対し、マルケにおける靴づくりの歴史は比較的新しく、本格的な発展をみたのは1940年代なのだそうです。また、前者が比較的規模の大きい数社に支えられているのとは対象的に、後者ではその主体は多くの小規模メーカー(そのほとんどは工房規模)なのです。とはいえ、製靴産業全体の規模ではマルケが勝り、おそらくは世界トップの生産規模と思われます。
 そんなイタリア靴の一大生産地にあって、あまたのメーカーからトップクラスの技術力をもつ存在として一目置かれているのが、ここでご紹介するボントーニです。
 職人の数わずか5、6人という、ビスポークシューズ専業の工房ボントーニがレディメイドの分野に進出したのはごく最近のこと。当然、ビスポークで培ったハンドソーンウェルテッド製法を得意としているのですが、この7月に日本初上陸を果すレディメイドではブラックラピド製法を採用。とはいえ、その製品はハンドの比率が高く、必然的に少量生産となるわけです。したがってボントーニは自社製品の取り扱い店を世界30店舗に限定していて、米国ではニューヨークの百貨店「グッドマン」など5店舗のみ。ここ日本ではワールド フットウェア ギャラリーが唯一の販売店となるそうです。
 このようなわけで希少性も魅力のボントーニなのですが、では、同業他社からも讃が寄せられるという、その実力とはどのようなものなのでしょうか?写真のリボンモカシン「デ スィーカ」で検証してみましょう。
 筆者が最初に注目したのは、甲に施されたみごとなモカ縫いです。革の銀層のみををすくい上げるように縫い上げていくスキンステッチは、手縫いの熟達技もつ職人でなくばなし得ない難度の高いステッチングですが、これをこのようにピッチの破綻なく美しく仕上げることができるのは並大抵のことではありません。しかも単に美しいというばかりではなく、よほど堅牢に糸締めしているのでしょう、モカ外周部分の革が微かにギャザー状になっており、これがまた、この靴のクラス感を高めています。いっぽう、コバに見られるブラックラピドの出し縫いは機械によるものですが、これまた正確無比のみごとなもの。ボントーニの職人がミシン使いにおいても極めて高い技術をもっていることが理解できます。
 実は、このブランド、1足を完成させるまでに、レディメイドでは常識破りともいえるほどの長大な時間をかけているのです。これは上記のステッチングもそうなのですが、たとえば吊り込み(アッパーの成型)では、なんと45日間を費やしている(概して長期間吊り込んだほうがしっかりと成型できるのです)とかで、これは並みのビスポークを上まわる手間暇といえます。結果、このモデルに見るように、非常に張りのある美しい立体感が実現されているわけです。
 アッパーに採用されている革の表情も繊細で、大変品があります。これは世界中のハイ・シューズブランドが軒並み採用している伊イルチア社の製品。カーフながら厚みがあり、コシと張りに富み、きめが細かいうえ、色のせすると独特の透明感が出て、ことにアンティーク仕上げでは絶妙の階調が表現できるトップグレードの革なのです。本品でもこの希少なイルチアカーフを用いることで、靴全体をより一層エレガントに見せています。
 ところで伝統的な靴づくりを身上するいっぽう、必要とあらばハイテクも取り入れてしまうところがボントーニのユニークな点です。というのも、履き心地をソフトにするなどの目的から、一般に中底にコルクフィラーが塗り込められるわけですが、本品ではそれに代え、なんとNASAが開発した「ポロン」なる素材を採用。これは履き心をソフトにするのみならず、歩行時の衝撃を吸収し、また、足裏の形を容易に記憶。しかも一度記憶すると、その形状を長く維持することが可能という優れた特性をもっているのです。ただの伝統主義者ではなく、よいものであればハイテク素材であっても取り入れ、それをハンドメイドに結合する。そうした柔軟な姿勢もボントーニの魅力なのでしょう。
 ちなみに、このリボンモカシン、もともとはアメリカで大好評のタッセルモカシンを、タッセル部分をカットし、レザーリボンのみ飾りにしたというモデルです。 モデル名である「デ スィーカ(De Sica)」はイタリア語で「短刀」という意味で、つまり、これはタッセルを切りとる際に使うナイフに由来する名称のようです。まぁ、私たち日本人にすれば、古風に見え過ぎるタッセルモカシンより、飾り控えめで、洗練された印象のあるこのリボンモカシンのほうが馴染みやすいのでは?
 前述したように、イタリアにはあまたのシューメーカーが存在しているわけですが、これだけの実力をもつブランドは、もうそうそうは現われないでしょう。そうした意味でも今回の本邦デビューは注目度が高いわけですね。確かにお値段は少々張りますが、それだけの価値が十分ある"大物"ブランドの日本デビューと考えていいかと思います。

文:山田 純貴 写真:平野 多聞

イタリアンスリッポンらしい色気のあるエレガントな佇まいながら、美麗なノーズシルエットを表すセミロングノーズのラウンドトゥは、もっかトレンドのアメリカンシューズを意識している。

すくいモカに見る秀麗なスキンステッチはまさに圧巻。また、モカの外周に見られる革のギャザーはモカ縫いの際、堅牢に仕上げるべく、ひと針ごとに縫い糸をきつく締め上げていることの証しだ。

本底はボルドー×オレンジの小粋なバイカラーで仕上げられている。なお、本品はブラックラピド製法ゆえ履き心地はソフトだが、グッドイヤー製法のようにオールソールの張り替えが容易に行える。

BONTONI(ボントーニ)

アイテム:リボンモカシンシューズ
モデル名:DE SICA(デ スィーカ)
品番:BOW0002B
製法:ブラックラピド
アッパー:伊イルチア社製ベジタブルタンニンカーフ
ソール:シングルレザーソール(ヒドゥンチャネル仕立て、バイカラー仕上げ)
カラー:アンティークブラウンのみ
製造国:イタリア
価格:14万7000円(2008年7月中旬発売予定)

お問い合わせ:

ワールド フットウェア ギャラリー 神宮前本店
TEL.03-3423-2021
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