メンズシューズ

08.07.25 UPDATE

英国カントリーシューズの伝統を残す、
威厳と品格を身にまとった男靴

 英国靴の伝統では、内羽根靴と外羽根靴は元来、役割が違うということをご存じですか? 内羽根(バルモラル)はいわゆるドレスシューズのディテールですが、いっぽう、外羽根(ブルーチャー)はカントリーシューズ、すなわちワークシューズのディテールなんですね。もちろん、今では外羽根式にもドレッシーな靴はあまたあるわけですが、それでもオックスフォード(内羽根式の短靴)とダービー(一般には外羽根式短靴のこと)を比較すれば、概して後者のほうがカジュアルに見えるのは確かでしょう。
 写真の靴をご覧ください。これは英国のジェントルマンズシューズを最も正統に継承する名門チャーチ(1873年、トーマス・チャーチ氏により、英ノーザンプトンにて創業)のウイングチップダービーで、モデル名は「グラフトン」です。ドレスシューズにカテゴライズされる風格たっぷりの1足ですが、実はよくよく探れば、カントリーシューズのエッセンスをいたるところに発見できます。
 先述したように、まずは外羽根であること。それからブローギング(アッパーにメダリオンやパーフォレーションの穴飾りが施されたデザインを指す)やウイングチップというデザイン。これらもカントリーシューズから発生したディテールといわれています。昨今、パーフォレーションの親穴を小ぶりにして上品に見せている靴を多く見かけますが、このウイングチップの親穴は大きく、これがこの靴全体をよりカントリー風に見せているんです。
  ソールを検証してみますと、厚さが1cmもあるダブルソールです。最初は硬くとも、履き込むとシングルソール以上に足形に沈み込んで足に馴染むといわれるダブルソールですが、実はこれも元来はカントリー仕様。ワイルドな田舎道を歩くのに、お上品なシングルソールじゃ足の裏が痛かろうということでダブルなんでしょうね。
 それから、思いきり張り出したコバ(これもカントリー的ディテール!)を見ますと、アウトステッチが靴をグルリッと1周。つまり、ヒールまわりにもアウトステッチが施されているんです。で、必然的にヒールリフトは大ぶりに。ドレス仕様ならヒールまわりはコバを廃し、ヒールリフトを小さくしてエレガントに見せるのですが、この靴ではヒールも無骨なカントリー風。しかもよく見れば、ウエルト(コバのこと。細革ともいう)がL字形に縫合されているのですが、これはストームウエルトと呼ばれるもので、アッパーとソールの隙間から雨などが浸入するのを防ぐための仕様。またまた、伝統的なカントリーシューズのディテールというわけです!
 しかし、こうしたブリティッシュカントリーシューズのエッセンスにエレガントな木型と素材を組み合わせた点が、この靴の最大の特徴です。
 採用されている木型「173」はクラシックなフォルムにも見えますが、実は2005年にお目見えした、比較的新しい木型です。かつて「73」番という、チャーチを代表する名木型が存在したのですが、同社がプラダ・ホールディングN.V.の傘下に入った翌年、よりエレガントでモダンな印象の「100」番にシフト。しかし「73」番を懐かしむファンが多かったことから、「100」番のフィッティングをベースに、そこに「73」番のクラシックでややボリューミーなフォルムを組み合わせて誕生したのが、この「173」番なのです。どこかノスタルジックで無骨なのに品がある。このプロポーションが絶妙で、以来、チャーチの現行ラストの中でも大変人気の高い木型となっています。
また、アッパーにもご注目。古くからのチャーチ・ファンには、この透明感ある光沢を見せる革は、「ブックバインダーカーフ」という名でお馴染みのはずです。これはカーフに特殊な樹脂を塗布し、手仕事で磨き上げられた、このブランド伝統の素材。現在でも人気のプレーントゥ「シャノン」などに採用されており、チャーチと聞いて、この素材を思い浮かべる人も少なくないかと思います。
というわけで、カントリーテイストと"チャーチらしさ"が巧みに融合された「グラフトン」ですが、同時に、そのウイングチップと羽根革の切り替えがヒールにまで伸びたデザインなどから、ある意味で"アメリカ的"と見なすこともできます。実際、こうした無骨な姿のウイングチップダービーはアメリカントラッドシューズのスタイルでもあるんですね。まぁ、チャーチがアメリカ市場を意識して、このモデルを開発したのか否かはわかりませんが、昨今トレンドもアメリカントラッドスタイルの着こなしにも絶妙にマッチすることは確かでしょう。
 昨今の細身の靴に慣れてしまった目には確かに無骨すぎるようにも見えましょうが、この威厳と重厚さは、いかにも男靴らしい魅力に満ちています。「どう履きこなせばいいのか?」との疑問もありましょうが、たとえば、足元にボリューム感が出るので、ここは細身で丈短めのパンツと組み合わせてノークッションで、というのが最もバランスがよく、スマートかと思います。ブリティッシュカントリーシューズに親しんだ経験のある方にはもちろんですし、これまで細身靴ひと筋だったという人にも、ぜひ、この「グラフトン」を履きこなして欲しいところです。
 なお、この靴は今季お目見えのモデルなのですが、実は本国では1950年代から展開されてきた定番中の定番とのことです(ただし、この木型「173」採用バージョンは2005年以降の展開ということにりますが…)。

文:山田 純貴 写真:平野 多聞

ラウンドトゥの木型「173」が採用されたこの靴を真横から見ると、トゥが微かに膨らみを帯びていることがわかる。これはいわゆるエッグトゥと呼ばれる、英国靴の伝統的なシルエットなのだ。

(写真左)あえてアウトステッチとチャンネル(アウトステッチを施すための溝のこと)を隠さず、アウトソールの革も素仕上げ(生なり仕上げのこと)に。これもまた、チャーチの伝統的なこだわりである。(写真右)アッパーには風合いに奥行きを感じさせる、エレガントな光沢を放つブックバインダーカーフを採用。この艶やかな革に、茶に近いバーガンディカラーが相まって、足元に控えめな色気を添えてくれる。

CHURCH'S(チャーチ)

アイテム:ウイングチップダービーシューズ
モデル名:GRAFTON(グラフトン)
品番:7869/54
木型番号:173
ウイズ:F
製法:グッドイヤーウェルテッド(オールアラウンドステッチ仕様)
アッパー:ポリッシュド・バインダーカーフ
ソール:ダブルレザーソール
カラー:バーガンディのみ
価格:9万8700円

お問い合わせ:
ディセンタージュ 青山本店
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