メンズシューズ

08.12.12 UPDATE

若き注目靴職人が作り出すハンドメイドシューズの圧倒的オーラ

CLEMATIS(クレマチス)

これは筆者の私見ですが、10年後、20年後、「高級紳士靴は日本製が最上」と評されることになるのではないでしょうか? この数年、若手のシュークリエイターが次々とデビューを果たし、それぞれが個性的な靴を展開しているわけですが、いずれの製品も非常にレベルが高く、そこに日本人ならではの繊細さも加わり、引き込まれてしまうほどの魅力を感じることができるのです。他の国の状況は詳しく知りませんが、若い人たちがこれほどの情熱と高い理想をもって靴作りに励んでいる国はないのではとも思うのです。希望を見い出せず、将来を不安に思う若者が多い今の日本ですが、高級靴の世界では何か明るい希望がもてそうな気がするのです。
クレマチスの登場は、そんな筆者の考えをさらに後押ししてくれるものでした。
すでに、さまざまな媒体で紹介されているので、靴好きならご存じのことでしょう。クレマチスは去る11月、東京・銀座にて工房併設の直営店を開設するとともにスタートした、靴、鞄、革小物の新進ブランドです。このうち、革小物はセミオーダーに加え、レディメイドの展開もあるようですが、靴と鞄はセミオーダーとフルオーダーのみであることから、オーダーメイド専門のブランドと見なしてよいでしょう。しかも、それら3つのカテゴリーをトータルでコーディネイトできるオーダーショップというのは、これは非常に珍しいのではないでしょうか。
主宰するのは33歳の靴職人、高野圭太郎氏と32歳の鞄職人、小松直幸氏。ふたりは実は小学校時代からの付き合いなのだそうです。また、小松氏は約8年間、藤井鞄でキャリアを積んだ持ち主。あの藤井幸弘氏から指導を受けたのですから、腕前には確かなものがあるに違いありません。いずれ機会あらば、この「クローズアップ」のコーナーでぜひ、同氏の作品も紹介したいと思っています。
いっぽう、高野氏は1998年にエスペランサ靴学院を卒業後、ある靴職人のもとで数年間、注文靴作りの修行を積み、2000年に関信義氏に弟子入り。さらに腕を磨いた後の2003年に独立し、金沢にあるKOKON靴店の専属注文靴職人として活躍してきたという人物です。ちなみに本サイトの大好評シリーズ「竹川 圭のshoe人十色」の第1回でご登場願った関氏は、現在、日本における靴作りの第一人者といっても過言ではないベテラン靴職人。同氏が手掛ける靴のすこぶる高いクォリティは、靴をよく知る者であれば誰もが認めるところです。となれば、高野氏の技術力も察してしかるべきなのですが、この点については後程、サンプルシューズで検証します。
それにしても小松氏が藤井氏のもとで、また、高野氏が関氏のもとでと、両氏はそれぞれが異なるジャンルの最高の職人のもとで修行してきたという、この事実に筆者は非常に感銘を受けました。小学生時代以来の親友同士が共同の工房を夢見て、「お前はあっちで、俺はこっちで」などと約束し合ったのでしょうか? それぞれに修行の時代を経て、ついに念願かなってスタートしたクレマチスへの彼らの思い入れは、決して軽々しいのではないはずです。
さて、ここで高野氏のオーダーサンプルの検証を始めてみたいと思います。
セミオーダーであれフルオーダーであれ、高野氏の靴はもれなく、素材や部材全てが同氏自らが厳選したものを使って製作されています。また、製法はフルハンドソーンウェルテッドと九分半仕立てがあり、前者では革の裁断や漉き入れから仕上げまでの全工程を自らが手仕事でこなしています。いっぽう、後者は出し縫いを機械で行う製法で、普通は九分仕立てと呼ぶのですが、高野氏の場合、フィット感をよくするため、踏まず部分のみ手縫いにしているので九分半(!)仕立てなのです。ちなみに、このオーダーサンプルのフルブローグではフルハンドソーンウェルテッド(こちらは十分仕立てということになります)を採用。そのせいなのでしょうか、見た目は重厚なのですが、手に持つと思いのほか軽いのに驚かされます。
アッパーはアノネイ社製カーフとチャールズ F.ステッド社製スエードのコンビネーションなのですが、どちらの革も風合い繊細な、表情の美しいトップグレードの素材であることがわかります。また、裁断や製甲(アッパーの各パーツを縫い合わせる工程のこと)、縫製の技術も素晴らしく、微細な破綻もなく完璧な仕事に見えます。羽根とヴァンプを区切るパーフォレーションとピンキングの流線は切り替えではなく、カーフのテープをスエードに縫合したものと思われますが、これなども大変美しく、実に見事な仕立てといえるでしょう。また、パーフォレーションの親穴が吊り込みで楕円になっている製品をよく目にするものですが、この作品では真円がしっかり保たれており、それが靴全体の印象をより優美なものにしてもいます。こうしたことは、高野氏にすればごく当たり前のことなのかもしれませんが・・・・。
付属のレザーキルトも、計16本のそれぞれに実に丁寧に縫製が! 正直、ここまで美しく仕立てられたキルトを目にしたのは初めてです。しかも聞けば、シューストリングを通すための鳩目にはスターリングシルバーを採用しているというのです。実に、この1枚のキルトからだけでも、高野氏の優れた技術と徹底したこだわりがうかがえるのです。
本底も見ごたえ(?)があります。まず、著しい内振りに目をみはりました。個人差はあるものの、一般に内振りや内絞りは人の足形に適った形状であるとされているわけですが、さすがにオーダーシューズだけあって、誠に大胆に振られているのです。しかも土踏まずのアーチもまた、非常に細く絞り込まれています。これがフルハンドソーンだからこそ可能となる、真性のベヴェルドウエスト。ウエスト部分を丘陵状に立体化した、いわゆるロールウエストと相まり、本底全体をクラス感ある表情に見せているのです。さらにヒールを見ますと、そこには補強用の真鍮ネイルが多数打ち込まれていて、しかもブランド名の略称なのでしょう、それらで「CM」の文字が描かれてます。ちなみに、そのブランド名の「CLEMATIS」とは雪割草やフクジュソウ、アネモネなどと同じ仲間のキンポウゲ科クレマチス属の植物のことで、花言葉は「旅の喜び」であるとのこと。高野氏と小松氏は生産者である自分たちを、その植物に例えているのでしょうか。
それにしても、このサンプルシューズからは圧倒的なオーラを感じました。細部まで丹念に作り込まれ、その佇まいの美しさも際立っているのです。若い職人でありながら、これだけのものを作り得るとは、なんと素晴らしいことでしょう。いかに高野氏が真摯に靴作りに向き合ってきたかがうかがえる、見事なサンプルシューズであると感じました。
ところで先程、クレマチスはオーダーメイドのブランドと申しましたが、実はベルトと靴2型に限り、レディメイドとして伊フィレンツェのサルトリア「リヴェラ−ノ&リヴェラ−ノ」で販売されているのだそうです。これは「海外へのアピールの挑戦」の最初の一歩であるとのこと。まだ、ささやかではあるものの、このようにメイド・イン・ジャパンの実力を示す試みを少しずつ積み重ねていけば、10年後、20年後には靴も鞄も革小物も「日本製が最上」というのが常識になっているかもしれませんね。

文:山田 純貴 写真:平野 多聞

内羽根とヴァンプ(甲部の枠革)の境界は単なる切り替えではなく、パーフォレーション&ピンキング入りのレザーテープを縫い付けたもの。破綻のない美麗な、その流線が高野氏の優れた技術力のひとつの証しとなる。

(写真左)レザーキルトの襞(ひだ)それぞれに施された縫製も誠に美しい。細部にも労を惜しまぬ仕事が見てとれる。(写真右)こうして見ると、著しく内振りであることがわかる。ウエストの絞りと立体感も圧巻だ。

写真はレザーキルトを取り外した状態。アノネイ社のカーフもステッド社のカーフスエードもきめが細かく、風合いに大変品がある。トップグレードの素材のみを厳選し使用していることがよく理解できるだろう。

CLEMATIS(クレマチス)

アイテム:フルブローグオックスフォードシューズ
製法:フルハンドソーンウェルテッド
アッパー:仏アノネイ社製カーフ×英チャールズ F.ステッド社製スエード
ライニング:カーフ
ソール:シングルレザーソール(ヒドゥンチャネル仕立て、ベヴェルドウエスト、ロールウエスト)
ヒール:ピッチトヒール
付属品:レザーキルト(鳩目はスターリングシルバー製)
カラー:ダークブラウン
価格:35万2800円〜

お問い合わせ:

クレマチス 銀座
TEL.03-3563-8200(予約優先)
http://www.clematis-ginza.com

KOKON
TEL.076-232-9255
http://www.kokon.sakura.ne.jp