メンズシューズ

09.03.06 UPDATE

靴の巨人ラタンツィ氏が創り上げた
ホーウィン・コードバンの極上ビットローファー

ZINTALA(ジンターラ)

現在、シュークリエイターの第一人者にシルヴァノ・ラタンツィ氏の名を上げる人は少なくないはずです。卓越した技術力と研ぎ澄まされた美的感性を兼ね備え、輝かしいキャリアと圧倒的カリスマ性も身につけたシュークリエイターなど、はたして同氏をおいてほかにいるのでしょうか? まさに現代イタリアが生んだ靴の巨人。それがシルヴァノ・ラタンツィ氏なのです。
両親が共に靴職人という家庭に生を受けた同氏が初めて靴を作ったのは、なんと9歳のときでした。11歳になるとイタリア中部マルケ州モンテグラナーロのマッツァ家が代々営む名門シューファクトリー(オリジナルブランドではプレミアータが有名)に入門。また、10代のうちにローマ、ロンドン、パリなどを旅し、美的感性に磨きをかけることも厭いませんでした。天賦の才と、こうしたたゆまぬ努力により、めきめき頭角を表したラタンツィ氏は、同じくグラッツィアーノ・マッツァ氏のもとでその才を発揮していたシルヴァノ・ソリーニ氏(後年、シルヴァノ・マッツァの総帥となる人物)とともに「ふたりのシルヴァノ」と呼ばれ、その卓越したシューメイキングは広く知られるまでになりました。そして21歳の1971年、ついに独立を果たし、自らのブランドをスタート。そのブランド名は「LATTANZI(ラタンツィ)」を逆さ読みにした「ZINTALA(ジンターラ)」でした。
以後、ラタンツィ氏の快進撃は続き、その間にトップラインの「シルヴァノ ラタンツィ」や、息子パオロとともに2005年に立ち上げたクラシックライン「パオロ ラタンツィ」など、いくつかのオリジナルブランドを展開。近年では愛娘ロベルタも参画し、シルヴァノ氏とはひと味もふた味も異なる色気靴をデザインしています。
そんななか、「ジンターラ」ブランドも何度かコンセプトが変更されてきたようです。一時は「シルヴァノ ラタンツィのセカンドライン」であるとか「主としてグッドイヤー製法による靴のコレクション」といった位置づけもされましたが、現在では「ややカジュアル寄りのライン」と見なすのが適切でしょう。そして、ここにご紹介するビットモカシンもまた、アメリカンテイストのカジュアルモデルなのです。
昨今のアメカジ人気を意識し、ハイブリッジ インターナショナルがジンターラに別注をかけたことで誕生した、このモデル。テーマは「'70年代、ビバリーヒルズのストリート『ロデオドライブ』にいる伊達男」だそうで、その重厚な佇まいはハイブリッジ インターナショナル代表の高橋氏がその当時のアメリカンドレスシューズからインスパイアされたことから生み出されたフォルムなのです。また、この迫力たっぷりのアッパーに合わせてか、ソールもボリューミーなダブルソールにし、アメリカンシューズの無骨さを再現しています。
アメリカ的なのはフォルムばかりではありません。たとえばアッパーには、これまたアメリカントラッドシューズの伝統的素材であるコードバンを採用。それも、あのオールデンで有名な米ホーウィン社のシェルコードバンの、選び抜かれたトップグレードの革が使用されています。つまり、この靴はコードバン好きにはたまらない1足でもあるわけです。また、ウエルトに施されたファッジング(ギザ状の仕上げのこと。目付けともいう)も(発祥地はイギリスなのでしょうが)また、かつてアメリカントラッドシューズに多用されていたディテールなのです。
もっとも、こうしたノスタルジックなアメリカ的エッセンスだけが、本品の魅力ではありません。むしろ、もっと注目すべきは手技による、大変みごとな仕事ぶりでしょう。たとえば、底付けにはラタンツィが得意とするハンドソーンウェルテッド製法を採用。モカ、およびトゥのセンターシームはもちろん手縫いによるスキンステッチです。しかも、そのステッチが美しいばかりか、縫い糸に耐久性に優れ、伸びにくい馬の毛をロウ引きしたうえで使用しているのです。
ところで、筆者が最も驚愕したのは、実は甲を飾るクランプ(ビットアクセサリー)なのです。ヨーロッパで古くから使われてきた金属製のフックをモチーフにした、このオーナメントは当然ながら金属製であるのが通常ですが、本品では金属はいっさい使わず、なんとコードバンを縫い合わせることで表現しています。しかも内部に芯材が入っておらず、コードバンのコシを利用し、手作業でこの立体感を出しているというのです。いったい、どうやって作ったのでしょうか。金属製のクランプを木型代わりにして、それにコードバンを釣り込んだのでしょうか? よくはわからないのですが、履き心地とは全く無関係な飾りに、こんなにも手間をかけてしまうところに、アルチザンであり、かつアーティストでもあるシルヴァノ・ラタンツィ氏の真骨頂を見る思いがします。
というわけで、カジュアルシューズではあるけれど、そんじょそこいらのカジュアルシューズとは格違いの、ジンターラのこのビットローファー。正直、お値段もビックリものではありますが、これは製品というより芸術作品であると思えば、むしろ安いくらいかも。もっとも、履くにはかなりの勇気が必要かもしれませんね。

文:山田 純貴 写真:笠井 修

(写真左)既存ラストによる、このボリューミーなフォルムがプレッピースタイルの足元にバランスよくマッチ。(写真右)真鍮製のネイルがヒールリフトの5か所に加え、トゥ部分にも11本打ち込まれている。

コードバン製のクランプ。芯材は用いず、コードバン自体のコシを活かすことで、この立体感を表現している。どうということもない飾りに見えるが、実は高度な手技を駆使し、大変な手間で作られているのだ。

ZINTALA(ジンターラ)

アイテム:ビットモカシン
木型:No.56
製法:ハンドソーンウェルテッド
アッパー:米ホーウィン社製シェルコードバン
ライナー&ソックライナー:牛革
ソール:ダブルレザーソール(ヒドゥンチャネル仕立て)
カラー:ダークブラウンのみ
製造国:イタリア
備考:ハイブリッジ インターナショナルによる別注モデル
価格:58万8000円

お問い合わせ:

ハイブリッジ インターナショナル
TEL.03-3486-8847