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暮らしのお店探訪- 第12回 山川屋

漆器の山川屋

うるし物をもっと日常に気楽に愉しんでもらいたいと語るのは1989年から、うるしを始めたという山川屋の林清隆さん。祖父のまた祖父という昔からこの麻布で、そして母に至るまで着物の仕立てや直しなど、いわゆる洗い張りの店を営んでいたという。いや実は今もどうしても着物の手入れの出来るところが少なくなっていて困るという長い贔屓の顧客の方がいるそうで、奥の棚には整然と畳紙が並んでいた。

うるしなど日本のものをもっと今の暮らしに取り込むといっても、無闇にそこにイタリア風のデザインをほどこしてみても、それは所詮真似でしかなくつまらないものとなるわけで、むしろ新しいのに懐かしいと感じて手に取った北欧の器の形は、もともと日本古来からある漆器にあったりして、影響しあった部分もあり、知らず知らず呼応していて馴染みやすく思えるのかも知れない。少し前からはやっている古民家のリノベーションもしかり、妙にモダンなものを継ぎはぎして手を加えるくらいなら、もとのままに再現した方がよほど美しいこともあって。日本独自の文化であり伝統工芸である漆器というものも重要だけれども、こと林さんにとって問題なのは、うるしそのもの。漆器という形・姿を超えるうるしの存在理由の追究とでもいうのか、いまだにうるしを塗る意味・価値というものに興味が尽きないと語る林さん。うるしで普通に楽しむ事、伝統ではなく変化していく事をなんとかもう少しやりたいと。そういうポップな変化をする方が日本らしいのかも知れないし、と。うるしの高級感や完成度の追求以外の面白さを模索し続け、試行錯誤の末、様々な器や物たちがうるしを纏い、独特の存在感をもって並んでいる。ここは、ただの漆器屋ではない漆器屋、うるし屋だ。

伝統は重く深く手強い、職人というものは熟練であればあるほど、当然ながら優れた技術で同じように美しく仕上げることに長けているわけで、それをあえて綺麗に塗らないようにしたり手前で止めてもらったり、本来塗らないものに塗ってもらったり、挙句の果てには塗師ではなく、木地を作る木地師にうるしを塗ってもらったり、うるしを顔料として扱う画家と意気投合して、これにあれに塗ってはどうかと、林さんの実験的うるし遊びは留まることなく続いて。

山から拾って来た石に少し削りを入れたものに朱のうるしを塗って置いてみれば、隣国の方から千個欲しいとオーダーされ、塗り立てのうるしを乾かすために漆器を並べた板が面白く何枚もオブジェのように立て掛けてみれば、壁の装飾として一面に敷き詰めたいから、あるだけ用意して欲しいとお願いされたり、訪れるお客様も何か他にはない面白味や吸引力を感じて扉を開けられるようで、これまでお顔を見せた錚々たる方々も、林さんの創り出すうるしと戯れ愉しいひと時を過ごし、それぞれのお気に入りを見つけたり、ご自分だけのオリジナルをオーダーして行かれたそうで。こういうものに、こういう色で、こんな風にうるしを塗って欲しいというオーダーも受けて下さるそうなので、ぜひ、あなたもどうぞ。

作るにも使うにも何かと約束事が多くて難しいと思っていたうるし・漆器というものを、気軽に自由に捉えるということは、こういうことだったんだなと改めて知ることのできる希少なお店。お買い物や散歩のついでにでも、ふらりと訪ねてみて下さい。

店の外観

山川屋
〒106-0045
東京都港区麻布十番1-5-25
TEL.03-3401-8577
営業時間:10:30〜19:00
定休日:火曜日

文:冨田 いずみ 写真:猪又 直之 2011.08.29 UPDATE

 

10年も前からあったという白うるし、生地の木目をわざと残した溜塗、天然の模様が浮かび上がる見事な乾漆

石に朱のうるしを塗ったもの

左/指輪の奥には、なんと紙コップに貴重なうるしを塗ったものが鎮座している。
右/通常の塗りでは均一な滑らかさが要求されるところだが、チジミや刷け目、タレなどを あえて作り重ね、その模様や風合いを遊び愉しむ。

銀箔をほどこした上に、すぐろめ漆としゅあい漆+職人それぞれの顔料を 混ぜたものを上塗りして作られた赤玉虫塗り

店の内観