06.05.21 UPDATE

東京・代官山のシューズショップ、42NDロイヤルハイランドにおいて、来日中だったステファノ・ブランキーニ氏に単独取材を行いました。かつてシューズトレンドに圧倒的な影響をもたらし、いまなお、その唯一無比の個性派靴で熱心なファンを増やし続けている、この天才デザイナーにboqがぶつけたお題はズバリッ、「ノルベジェエーゼ」でした。

boq(以下、b) 今日はノルベジェーゼ製法のお話を中心にうかがいたいと思っています。よろしくお願いします。

ステファノ・ブランキーニ(以下、S) こちらこそ。

b 12年ほど前にブランキーニさんの靴を初めて目にしたとき、スクエアトゥ、アンティーク仕上げ、ノルベジェーゼといずれも大変独創的で、大変新鮮な印象をもちました。

S 1990年に自分のブランドを立ち上げようとした際、とにかく「オリジナリティのある靴を作ろう」って思ったんだよ。あの頃、ドレスシューズというと色は黒かこげ茶が常識だったから、まず「黒はやめよう」と。で、ブラウン系でもニュートラルとかウッドといった明るい色を中心に展開することにした。それと他社の靴はラウンドトゥばかりだったから、「自分はスクエアトゥで行こう」と決めたんだ。第一、ボクは曲線より直線のほうが好きなんだよね。あと、直角が好き。斜めは嫌いだよ(笑)。

b では、ノルベジェエーゼ製法は? それもオリジナリティへのこだわりから生み出された技術なんですか?

S そうだね。あるとき、ローマのマーケットでノルウェーだかスウェーデンだかの古いスキー靴を見つけたんだよ。スキー板が今のみたいなカーボン製じゃなく木製だった時代の靴で、板の差し込み口に取り付けられるようにトゥがスクエアになっていた。そのデザインがすごく気に入って、それでいろいろ改良を施して、その製法でドレスシューズを作ったんだ。

b まわりの反応はいかがでしたか?

S 全然よくなかった。最初の3年間、1足も売れなかったんだから(笑)。だから、サンプルの靴を革の袋に入れて、あっちこっちの靴店にセールスに歩き回った。イタリアはもちろん、いろいろな国に。日本にもね。

ノルベジェーゼ製法

b ノルベジェーゼ製法は他社に大きな影響を与え、追随するブランドも多く現れましたが、その点についてどうお考えですか? スクエアトゥやアンティーク仕上げなどもそうですよね? いろいろなメーカーが模倣したり…。

S コピーされても気にしないよ。むしろ嬉しかったな。影響を与えることができたわけだからね。靴の歴史の一部を作ったんだという誇りがもてたし。それにノルベジェーゼに関しては、技術的に完璧なのはうちだけだよ。そうそう、本底のブランドマークの刻印に焼き印を追加したのもボクの創案だよ。それから靴収納用の化粧箱。うちの靴の付属になってる紙箱は実は20年前に考案したもので、特許も取ってるんだ。とても手が込んでいて、手作りなんだよ。機械じゃ作れない。あっ、それとその中の布はジャケット用の生地なんだ。

b ところで日本ではノルベジェーゼの靴は履き心地が硬いからと敬遠する人が多いのですが、確かにすごく硬いですよね?

S 硬いけれど、履き込むうちにソールが足の形に沈んでいって、すごく履きやすくなるんだ。ソールが厚いから十分沈み込むからね。ただ、そうやって自分の靴になるまでは“飼い馴らす”必要があるんだ。それとね、靴は本来、硬くなきゃいけないんだよ。

b えっ、本当ですか? それはどういうことですか?

S 柔らかい靴はね、歩行中に背中に悪い影響を及ぼすんだ。これは医学的に証明されていることだよ。柔らかい靴が好きな日本の人たちには特に知って欲しいな。腰などが悪い人は、とくにうちの靴みたいな硬い靴を履いてもらいたいと思うんだ。

b そうですか。意外ですね。今日はお忙しいなか、貴重なお話、ありがとうございました。

S サンキュー。

インタビュー・文:山田 純貴 写真:原 ヒデトシ

1953年、イタリア・ボローニャにて靴職人の長男として生まれる。13歳で靴作りを始め、その4年後、名門ア・テストーニ社に入社。製靴のみならず、次第にパタンナー、スタイリストとして頭角をあらわす。1990年に独立して「ステファノ・ビ」を立ち上げ、ノルベジェーゼ製法のスクエアトゥシューズを展開。折からのクラシコ・イタリアブームとリンクし、大ブレイク。他社に圧倒的影響を及ぼす。同ブランドの商標などをLVMHグループに売却し、ブランキーニ・カルツォレリア社を設立。現在、ハンドメイドのハイグレードライン「ブランキーニ・カルツォレリア」と、マッケイ製法などによるリーズナブルな「ステファノ・ブランキーニ」の2つのブランドを展開するとともにアパレルやメガネなどの分野にも進出している。

b ノルベジェーゼとは「ノルウェー方式」といった意味ですか?

S そう、イタリア語でね。英語ならノルウィージャン。ノルベジェーゼという名称はボクが考案した言葉なんだよ。あと、ノルベステッチを考案したのもね。というのも、もともと北欧のスキー靴にはアッパーの外側に縫い穴が全くないんだ。雪などの水分が靴の中に浸入しないようにね。でも、ボクはコバの上にハンドソーンで飾りステッチを入れることにしたんだ。この技術は本当に難しいんだよ。靴の中に手を突っ込んで縫うんだけど、細長い指の女性でないと無理だしね。大きい男の手は靴の中に手が入らないんだ。まぁ、いずれにしても北欧製のスキー靴とうちの靴の共通点は、ソールが3層になってるってことなんだ。グッドイヤーはシングルソールなら2層でしょ? コルク層やシャンク、中敷きとかを除くと中底と本底なから成っている。でも、ノルベジェーゼは3層で、このうちの本底は接着で取り付けられているわけ。スキー靴だと本底に出し縫いがあると、そこから水分が靴の中に染みてきちゃうからね。

b それは今回、日本初上陸となったフィンランデーゼ製法でも同じなのですか?

S 同じだよ。フィンランデーゼはノルベジェーゼ製法の一種というか、発展型なんだ。ノルベステッチはチェーンステッチなんだけど、フィンランデーゼステッチはちょっと風変わりなジグザグ状の三つ編みなんだ。しかも各ピッチごとに糸止めをするので、ノルベステッチよりもさらに丈夫。まぁ、すごく手間が必要なんだけど。

b 糸の太さも違いますよね。フィンランデーゼステッチのはすごく太く見えます。

S うん、ノルベステッチでは9本のコットン糸を撚ってるんだけど、フィンランデーゼは27本だからね。いずれにせよ、どっちも手で撚った糸なんだ。

フィンランデーゼ製法

お問合せ:42NDロイヤルハイランド
TEL:03-3477-7498