06.05.21 UPDATE

イタリカジャパンのショールームにおいて、来日中だったコスタンティーノ・プンツォ氏に取材を行いました。かつてロンドンハウスに在籍し、現在、自身の名を冠したブランド「コスタンティーノ」のモデリストとして活躍する氏に「ナポリ仕立て」についてお話を伺いました。

■よく巷でナポリ仕立て、ナポリスタイルと呼ばれていますが、いったいどんな服なのでしょうか?

コスタンティーノ・プンツォ氏(以下C) 一番の特徴は美しいラインを崩さずに着心地がよいということ。ナポリのサルト(仕立て職人)が百年前と変わらぬ手縫いの技法を用いて仕立てたスーツやジャケット、パンツのことです。

■ナポリのサルトらしいこだわりを教えてください。

C もうひとつ彼らの仕事で特徴的なことは、型紙を作らないということです。一般的には、採寸した後にオーダーシート(採寸したデータを記した用紙)を基に型紙を引いて、その型紙を生地の上において裁断していきます。
ところがナポリのサルトは採寸したデータと顧客の体型の特徴を頭の中に入れて、型紙を作らず生地の上に直接チョーク(チャコ)で描いていきます。これは別に手を抜いているわけではなく、ちゃんと理由があります。
生地の種類によって特性が異なりますし、顧客の体型も月日が経てば微妙に変化していきます。型紙を作って保管し、再び流用することにあまり意味がないと思っているからなんです。もちろん採寸したデータは保管します。
たとえば同じ顧客のスーツを同じ時に作ったとしても、微妙にフィット感が違うわけです。一点一点違うということですね。ナポリのサルトはフレキシブルというのが信条なんです。


■本当のナポリ仕立ての魅力は、やはりス・ミズーラでないと発揮されないのでしょうか?

C もちろん最近ではプレタポルテ(高級既製服)でも体型補正してくれるサルト風のものもありますが、本当のナポリ仕立てのよさを体験するには、ス・ミズーラ(フルオーダー)ではないと難しいかもしれません。
プレタポルテは誰にでも合うように作らなければいけませんから難しい面もありますね。また手縫い、手仕事というのがナポリ仕立てではとても重要ですから、そのあたりの課題も残しています。

■コスタンティーノ氏が仮縫いをされるのですか?

C ス・ミズーラで重要になってくるのが仮縫いの工程です。型紙を使わず、サルトの経験による勘だけで仕立てていくように思われますが、そんなことはありません。
私は採寸だけでなく仮縫いも行います。とくに仮縫いは細心の注意を払う必要があります。といのも私が仮縫いをした商品と補正する箇所を記したデータをイタリアに持ち帰って、それを基にサルトが仕立てるわけですから、大変責任が重い仕事なのです。

・・・・・しばらく仮縫いの実演・・・・・


■ミリ単位で行う細かい作業なんですね。正直驚きました。仮縫いに一人どのくらいの時間がかかるのですか?

C お客さんの体型によってマチマチですが最低でも30分はかかります。肩や胸に筋肉がついていたり、お腹が出ているという方は比較的仮縫いしやすいのですが、痩せている方が難しいですね。
いまチョークで印をつけたのは骨が当たっているところなんです。そこにゆとりをもたせるように補正するのですが、痩せている方は肉がありませんから骨が当たる箇所が多いわけです。それだけ仮縫いにも時間がかかります。場合によっては2回行うこともあります。
お客さんによっては黙っている方もいらっしゃるので、私が目で確認して判断していきます。
これは他のテーラーではまずやっていないと思いますが、ネクタイの厚み分も考慮してジャケットの胸幅も決めています。


■少しかもしれませんが、ナポリ仕立てが理解できました。本日はありがとうございました。

C 一度着てみてください。すぐに良さがわかりますよ。



お問合せ:イタリカジャパン
TEL.03-3221-3271
URL:http://www.italica.jp/

文:倉野 路凡 写真:綿屋 修一

コスタンティーノ・プンツォ

1967年生まれ。ピサ大学で数学を学んだ後、21歳のときにクラシコイタリアの名店ロンドンハウスで働く。このとき名サルト、フェリーチェ・ヴィゾーネ氏に出会い、以後パートナーとして専任のフィッター(モデリスト)になる。現在、自らの名を冠した「コスタンティーノ」のフィッターとして、受注会の際に度々来日。またナポリのシャツの名門ルチアーノ・ロンバルディとのス・ミズーラや、パスクァーレ・モーラ氏とのパンツ製作(プレタポルテではアンティコ パンタローネ)、ネクタイのフランチェスコ マリーノ(ペル コスタンティーノ)のフィッターとしても活躍している。

■技術面で英国や日本のスーツとどこが違うのですか?

C 一概には言えませんが、英国にしろ日本にせよカッチリとしたスクエアなジャケットが多いですね。ナポリスタイルのジャケットやパンツには"緩み"があります。この緩みがあるから動いたときに美しいラインが出て、エレガントに見えるのです。
椅子に座ったときにはラペルからフロントにかけて美しいドレープラインが生まれ、手を上げたときには肩が浮き上がるということもありません。つまりどんなポーズをとってもジャケットが体に沿って合わせてくれるわけです。
また緩みといっても全体的にもたせるのではなくて、脇の下であるとか、要所要所を糸のテンションを緩くしたり、アイロンワークによって緩み、余裕を作り出しているわけですね。これがナポリのサルトの卓越した技術なのです。
人間の皮膚に例えるとわかりやすいかもしれませんね。ある程度余裕がないと動いたときに突っ張ってしまいます。服もやはり同じなのです。

■最近日本でも若い仕立て職人が増えてきていますが、ナポリではどうでしょうか?

C 現在はナポリでも技術を継承してくれる若いサルトが増えてきました。1940年代〜1950年代くらいまでは、各家庭にホームドクターがいるようにホームサルトがいました。つまり服を買う=服を作るという時代でした。
その後、プレタポルテのブームとなり、1950年代〜1980年代までサルト不遇の時代が続きますが、その間もサルトたちは変わらない技術で作り続けていました。現在、サルトの数も減りましたが、現役のサルトの価値が高まったのも事実です。
私の親方であるフェリーチェ・ビゾーネ氏はこの道53年の熟練サルトです。彼はさまざまな店で修行し、高度な技術を吸収してきたという経緯もあり、技術的にも大変優れたサルトです。ナポリでも稀有な存在でしょう。
彼のようにすべての工程が巧いサルトもいれば、肩の工程が得意なサルトもいます。またナポリではジャケットとパンツを仕立てるサルトは別々なんです。
若いサルトが彼らの技術をどこまで吸収して高めていけるか、楽しみでもあります。


■日本でも型紙を使わない職人はいますが、仮縫いの後に保管用に作ることが多いと聞きます。まったく型紙を残さないのでしょうか?

C ええ、仮縫いの後も型紙を作りません。採寸したデータと仮縫い時に補正したデータを保管するだけです。ナポリのサルトにいわせると型紙はパターンオーダーのような量産品に使うというイメージがあります。