07.02.01 UPDATE

津久井玲子に長谷川良治。
次なるシュークリエーター筆頭と目される二人が
"和プレミアム"と銘打った伊勢丹の企画に登場した。
仕掛け人はインポーターの雄、マグナムの坪内浩だ。

 ニッポン靴業界の歴史書があれば、86年はインポート元年と記されるに違いない。その年、皮革・革靴輸入における制度を、それまでのIQ制(import quota system=輸入割当制)からTQ制(tariff quota system=関税割当制)へ改めたのだ。平たくいえば足数制限のあった輸入枠を取り払ってしまい、税金さえ払えば何足仕入れてもいいですよ、という取り決めになった。年々関税率は下がり続け、当時164万足だった革靴輸入は03年現在で2000万足近いから、10倍強へ膨らんだ計算になる。
 どの時代、ジャンルにも草創期にはパイオニアがいて、靴業界にも現れた。業界ではツボさんの名で親しまれているマグナムの坪内浩さんもそのひとり。シューモードの先頭を走るグラツィアーノ・マッツァ手掛ける「プレミアータ ウォモ」、イタリア靴業界の良心ともいうべき「エンツォ・ボナフェ」を日本に紹介したのが、このツボさんだ。
 だから伊勢丹がこの秋に行った和プレミアムの仕掛け人と知って、意外だった。それは日本のつくり手をフィーチャーしようという試みで、僕も登場を心待ちにしていた職人・津久井玲子とデザイナー・長谷川良治に白羽の矢が立った。
 インポートの大御所がなぜ今さら日本の若手を。当然の疑問だった。

04年秋冬コレクションよりスタートした「トゥルバドゥール」。レースステイのパターンがユニークにしてシャープな印象の外羽根フルブローグ¥45,150、爪の立ったコバの処理がエレガントに見せるホワイトバックス¥39,900(いずれも参考価格)。
つぼうちひろし
エスペランサ靴学院第三期生。卒業後、靴業界のコンサルティング会社ジャルフィックに入社、各メーカーの企画デザインに携わる。フリーランスのデザイナーとして活躍した後、マグナム創立に参画、「プレミアータ ウォモ」や「エンツォ・ボナフェ」を日本に紹介した。スポーツ・ブランド「パトリック」のデザインを手掛けているのもこのヒト。

 業界のコンサルティングをしていた前職まで遡れば都合30年、ツボさんは海外の靴を見続けている。
「トレンド分析のために訪れていた海外の見本市にはさすがいい靴がゴロゴロしていて、日本に紹介したいなと思って今に至ります。
 随分長いこと、バイイングという仕事に携わってきました。そのせいかな。最近はつくり込むことにも興味が沸いてきました。
 日本でどこまで海外の靴に肉薄できるか。これを試してみたくなったんです」
 改めて国内に目を向けたとき、先の津久井さんと長谷川さんが「抜きん出た感性と技量をもっていた」。長谷川さんにいたっては個人的に欲しいと思った久しぶりの靴だったそうだ。伊勢丹から打診されて、迷うことなく推した。受注会が好評だったのを受けて、二人のコレクションはこの春から常時伊勢丹へ並ぶことになった。
 先んじるカタチで04年秋には国内メーカーに製造を依頼したオリジナル・ブランド「トゥルバドゥール」を立ち上げている。端正な顔つき、ウィットなデザイン処理は日本の靴の今後のありようにヒントを与えているように思う。
「月に二回のペースで工場に顔を出していますが(その工場は山形県にある)、なかなか思う通りにはならない。しかしそこが面白いんですよ」
 一連の試みは日本の靴産業を何とかしたいって気持ちからですかと尋ねると、そんな大げさなことは考えてないよと答える。年のせいですかねと冗談めかすと、そうかもと笑う。とても紳士で控えめなヒトだけど、どうやら謙遜ばかりではないようだ。
 しかし次のようなコメントを聞くと、やっぱり業界復興の一翼を担うヒトでしょうと握るこぶしに力が入る。
「ヨーロッパではファッション業界が一丸となってモードをつくろうとしている。メーカーは下請けではなく、デザイナーのパートナーなんです。感性を共有するから、良い靴が生まれる」
「靴づくりの進め方も独特で、まずラストメーカーへ赴き、モデリスタ(木型職人)と打ち合わせをする。アイデアをその場でカタチにしてしまうので、思いがブレることはない」
 工場に足繁く通う姿はヨーロッパのデザイナーのそれだし、すでに日本では本当に珍しいピンのモデリスタ(まだ20代後半という若さだ!!)を要所で起用している。僕が気負わなくても、ツボさんはさらりと事を成してしまうような気がする。

企画・取材・文:竹川 圭 写真:是枝 右恭 デザイン:クラスターワークス

お問合せ:
マグナム プレスルーム
TEL.03-5411-7454