「その人なりの靴って美しいと思うんです」 靴の製造現場とは思えない、隅々まで整理が行き届いた工房には通常よりも足幅の大きな靴や小ぶりな靴が、納品を待って行儀よく並んでいる。 元々ヒロさんは、木型をいじることにあまり積極的ではなかった。というのも自らの木型を想定し、築き上げたパターンが崩れてしまうからだ。しかし現在は、ほぼ例外なく何らかの木型修正を施すし、木型を一から削る"フルスクラッチ"もメニューに加えている。 ありのままを受け入れるようになったのは、ビスポーク・シューメーカーとしての良心であり自信だが、だからといってクリエーションがなおざりになったかというとそうではない。むしろ、創作意欲は増した。 確か一昨年の暮れだったと思うけど、「ここのところ色々なことに忙殺されました。来年は意欲的にサンプルをつくっていきたい」と語っていた。 予告通り、06年はたくさんのサンプルが完成した。そしてそのどれもがこれまで見たことのない、唯一無二のデザインだった。「紳士靴のデザインは出尽くしたというけれど、私はそうは思いません」というかつてのコメントの有限実行だった。それは決して表層的ではなく、連綿と続く歴史が無駄をそぎ落とし、完成した紳士靴デザインの系譜に連なるものだった。親交のあるイギリスのシューメーカーも驚いていたという。 熟考の末にたどり着いた現在の立ち位置を見ていると、やはりこの原稿を終わらせるには冒頭の下書きを本番にアップしてしまうに限る。唯一"科学者"らしからぬミスジャッジは自らを"トリプルスリー"と評したことで、しかしだから、ヒロさんにはファンが多い。
企画・取材・文:竹川 圭 写真:是枝 右恭 デザイン:クラスターワークス
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