(写真上)木型を削る荒井。削り始めると、仕掛かりの仕事もすっぽかしてしまうのだとか(笑)。現場で鍛えられただけあって、やっぱり職人気質なところがあるようだ。
(写真右)取引先のイメージが靴に落とし込めるのは、それだけネタの引き出しをもっているからだ。物腰が柔らかで、この人に任せておけば安心って思わせる話術もある。
前回紹介したワールド フットウェア ギャラリーの日高竜介が一目惚れした「ミヤギコウギョウ」、その仕掛け人が荒井である。
「ドレス屋として、ちゃんとしたドレスシューズがつくりたかった。それだけです」
先に言っとくと、普段は結構饒舌なのに取材となった途端、テレなのかはぐらかす。荒井は、そういう男。
グッドイヤーを得意とする山形の老舗、宮城興業。名だたるブランドの製造元が自らの名を冠したオリジナル。日高の回で書いたとおり、その靴は僕にとっても数年ぶりのヒットだった。一言でいって、5万円アンダーとは思えない佇まいがあった。
足のカタチに忠実な、グラマラスなフォルムは好例だ。
まだまだと謙遜するがその木型は荒井が自ら削っている。
木型はその道うん十年のプロの聖域だった。製靴現場を知っているとはいえ、そういう意味では門外漢である。だけどさ、とやんわりいう。
「これまでの木型職人って、どれだけその木型でつくった靴を履いて、確かめたんだろう? そもそも戦後の木型って効率が重視されていたわけですよね」
確かにそれまでの木型は作業のしやすさを優先した、起伏の少ないものだった。
多くの若者が門を叩いたことで、技術は公開されるようになっている。荒井は先んじてその知識を吸収してきた。少なくとも僕の足には一分の隙もなく吸い付いた。