「愛着」を育てる
愛着がある諸々に囲まれて過ごす時間とは何ともハッピーなものですよね。
それは、自分のスペースで寛ぐ時でも、誰かのスペースに足を運んだ時でも同様ではないでしょうか。
最新トレンドの新品インテリアや新品グッズを揃えただけの端正なスペースの何と味気ないことよ!
そんな「新しい」だけのスペースより、そこに生きる人々の好みや、こだわりや、喜怒哀楽や、歩んできた道が、そこかしこから顔を出しているスペースの方が、はるかに居心地がよく、刺激を与えてくれるのはなぜでしょうか?
きっとそのスペースが、ドラマやロマンを感じさせるからでしょう。
悠久の歴史を育んできた歴史的建造物を目の当たりにすると、感動の波がドッと押し寄せることがあるのとちょっとだけ似ているような気もします。
この話を服に置き換えてみても、同じようなことが言えそうです。
例えば。
100年以上前に生きていた洒落者たちは、決して「おろしたて」を好まなかったと言われています。
かつては、「おろしたて」をこれ見よがしに着る人間の浅薄さが、世のダンディたちの嘲笑の的となっていたのです。
的確に、されどさりげなく、最先端の装いを自分流儀に着こなすというのが最もスタイリッシュだったわけです。
大阪に約9年間暮らして、「嬉しがり」がすっかり身についてしまった僕はダンディたりえないわけですね、嗚呼…
更に、とある18世紀に生きたダンディにいたっては、仕立て上がった服を壁に叩きつけ、足で踏みつけ、最後には石を投げつけた上に、数日間風雨にさらした後ではじめて袖を通したという、嘘とも本当ともつかない逸話を残しています。
最先端の装いをさも以前から身につけていたかのように見せるがために「使用感」を出したかったのでしょう。
でも、どう考えてもこれ、完全にやりすぎですよね(笑)
開いた口が塞がりません。
ただ、当時は今ほど柔らかな仕立ての服が存在しなかったのも事実なわけで、どうしても使用感を出したければそこまでする必要があったのかもしれません…
いずれにせよ、かような乱暴かつ酔狂とも思える行為を通じて、服に命を吹き込もうと努力した先人がいたらしいという逸話の存在自体が物語っている真理があります。
それは、「手に入れた時点においては、新品の服はまだただのモノに過ぎない」、ということです。
現代に生きる洒落者たちの多くも、その真理を感覚的に知っているようです。
もちろん時代背景がまったく違いますから、前述した極端な先人とはアプローチを異にするものの、自分の身体になじませ、きちんと手入れをして、手持ちのアイテムを自由自在に合わせてみて楽しんで、そして時にはサイズ調整をしたり補修をしたり手を入れたりすることで、「ただのモノ」に命を吹き込んでいき、真の意味での「自分の服」にするという、正に今回のテーマである「愛着を育てる」ことを楽しんでいる人が僕の周辺にも数多く存在します。
そして、そういう姿勢を持っている人の方が、血眼になってトレンドを追いかけている人よりも、断然スタイリッシュだったりします。
なるほど、気に入った服を永きに亘ってお気に入りのまま大切に着続けるということは、環境問題が最重要イシューのひとつに挙げられる現代社会において、とても重要な視点であると同時にとってもクールかつスタイリッシュな行為ですよね。
もちろん、お気に入りのまま着続けるには、嗜好の変化、体型の変化、日ごろの着用によるダメージの進行など、経年とともに発生しうる様々な障害を克服しなければなりません。
その障害の克服には、リペアショップや、リペアやリメイクも引き受けてくれる仕立屋を有効活用することをぜひおすすめします。
特に、自分の嗜好や体型やライフスタイルを把握してくれている馴染みの仕立屋の存在は頼もしい限りです。
仕立屋なら、例えば、補修に使う生地やボタンやライニングといった資材の手配が必要な際にも、選択肢が豊富かつスムースでしょうし、技術面でも対応可能な範囲が広いでしょうし、それがましてや馴染みの店なら、その店のものではない服のリペアやリメイクでも、オーダーの時と同様に親身になって相談に乗ってくれることでしょう。
もちろん僕が代表をしている仕立屋A WORKROOMでも、可能な範囲内であれば当店以外でご購入した服のリペアとリメイクの対応をさせてもらっているのですが、ここ最近、相談件数がかなり増えているのが実情です。
「服を大切に着たい」と思う人が増えてきているのでしょうか、昨今の世界経済の激変の影響が少なからずあるとしても、とっても素晴らしいことだと思います。

最近承ったリメイクの一例としては、タスキ掛けのバッグを使用する頻度が高いことが原因でお腹近辺のエッジが擦り切れてしまったスーツの上着をどうにかしたいというお悩みを、パイピングで傷を隠してプレッピーフレイヴァーあふれるジャケットに変身させることで解決したというものがあります。
他にも、今までのリペア&リメイクの実例をごく一部ですが、こちら(http://www.a-workroom.com/repair/index.html)で見ることが可能です。
店舗に工房を併設し、そこに職人を常勤させているからこそ可能な、ユニークな実例もありますのでぜひチェックしてみて下さい。
僕がA WORKROOMを始めた時に掲げた理念のひとつに「服を愛するあらゆる人のサポーターでありたい」という思いがあるのですが、それを端的に体現するのがリペア&リメイク部門の充実なのです。
もちろん、お得意様でなくても、オーダー時と同様にきちんとカウンセリングしながら対応しますのでご安心下さい(笑)
A WORKROOMが仕立屋を生業としながらも、リペア&リメイク部門を充実させ、ユーズドウェアやCDを販売し、音楽関係の店かと見紛うような店内にしているのは、僕の思いや嗜好に起因しています。
僕はわりと小さい頃から、中古レコード店、ボロ市、古着屋、古本屋、古道具屋、骨董屋といった古物商系の店を見るのが好きでした。
その類の店を見て廻ると、なかなか新品で探しても見つからないような掘り出し物や一点物に出会えることがありますし、それ以前に古物が育んできた新品にはない「味わい」に触れるだけでも何だか高揚するのです。
ヨーロッパに行くと、可能な限り蚤の市や骨董市に足を運び、しばしば通りすがりの古道具屋やガラクタ屋に長居してしまうのも、そういった小さい頃からの嗜好が少なからず影響を与えているのでしょう。
そんな古きよきものを愛する男が、何の因果かひたすら新しさを追求するファッション業界に足を踏み入れてしまい、「マーケットイン」やら「52週VMD」やら「QR」やら、やたらめったら効率を重視する夢のない業界用語の雨あられに辟易し、それなら自分の行きたい洋服屋を作ってやろうと決意したのが約7年前です。
猛スピードで消費される服ではなく永きに亘り自分流儀で着られる服を扱う、音楽や映画を服と同じように愛する人々が集う、服のことなら何でも相談できる、エキサイティングな洋服屋、というのが自分の行きたい店のイメージでした。
青山の一角に小さな店をオープンさせてから約6年、代官山に店を移してから約3年、だんだんと血が通った、愛着に満ちた店に育ち今にいたっていると、手前味噌ながら思っています。
願わくば、足を運んでくれる皆さんにとっても居心地がいいスペースであればいいのですが。
しかし、いつもながら、行が進むにつれて段々と自分の店のPRになっていきますね…
すみません(笑)
ともあれ、皆さんも身の回りでたくさんの愛着を育てようではありませんか!
そして、愛着にあふれた諸々に囲まれた生活を送ろうではありませんか!
でも、くれぐれも新調した服を足で踏みつけてみたり石を投げつけてみたり、無茶をしないで下さいね(笑)
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