職人に会いに行く 〜その(1)〜

皆さん、ご無沙汰しております。
久しぶりの更新、「忙しかった」という言い訳が通用しないほどの間を空けてしまいました・・・
大変申し訳ございません。

気を取り直して本題に。

職人魂に触れるのが好きです。
「クオリティに対する飽くなき探究心」や「実力に裏打ちされた自由なクリエイティヴィティ」や「自分が生んだモノに対する深い愛情と責任感」、職人魂といわれて僕が想像するイメージです。
例えば、敬愛する音楽家である山口洋さんのライヴ演奏からも職人魂がひしひしと伝わってきます。
THE BLACK CROWESの新譜からも底知れぬ職人魂を感じたなぁ。

そんな僕ですから、服や靴や時計など身に着けるアイテムも手が掛かったモノが好きです。
もちろん僕がやっているテイラー、A WORKROOMで扱うオーダーアイテムも出来るだけ手を掛けるようにしていますし、長年第一線で活躍し続けられるようにアフターケアも惜しみません。
その一環として、という訳でもないのですが、2009年の夏から新たに姫路の若き靴職人、今井宏樹さんと組んで、僕がデザインしたコラボレートモデルを発表したり、定期的に今井さんを招いて受注会を開いたりしています。
取組みを始めて以降、シューズに対しての諸々を話したり、コラボレートモデル製作のやり取りをしたり、酒を酌み交わしたりしているうちに、今井さんが掲げる「感動のある靴を」という素敵な言葉と、僕が掲げる「Exciting Tailoring」という言葉には相通じるものがある、いや、それどころかかなり近いフィーリングがあることに気付きました。
そして、「いずれは海外に打って出たい」という野望を内包している共通点があることにも気付きました。
そんなお互いに対するシンパシーが根底に流れているので、僕がお願いする無茶なデザインも「面白そうですねぇ」と快く引き受けてくれて、しかも見事に具現化してくれるのです、きっとそうです、そうに違いない、いや願わくばそうであって欲しい(笑)。
かように良好な関係を構築していく中で2回の受注会を終えて、お得意様がオーダーしたシューズの仕上がりを見たり、自身で購入して履いてみたりして、今井さんが作るシューズが放つ職人魂を確かに体感した僕は、その「魂」が注入される現場を無性に見たくなりました。
自他共に認める重い腰を持つにもかかわらず、こういった類の行動だけは思い立ったら即動く僕です(笑)。
やっぱり、完成した「モノ」を見るだけよりも、「魂」を注入するプロセスを自らの感性で直接捉えた方がより職人魂の本質が見えてくると思うのです。
ましてや、僕らはお客様に「モノ」の価値を伝える役割も担っている訳ですから、今井さんが「魂」、すなわち今井さんのいうところの「感動」を仕込む様子をしっかり焼き付けておく必要があるとも思うのです。
ということで、一路姫路へ。
姫路は旅行や仕事で何回か訪れているのですが、日本一の誉れ高い姫路城を筆頭に見所が満載だし、道はゆったりと作られているし、とても優れた環境の街ですよね。
何度来ても「また来たい」と思える街のひとつです。
新幹線を降りると今井さんが手を振って待っていてくれました。
アトリエは姫路駅から車で約30分のところにあるので、迎えに来てくれたのです。
スーツやシャツの縫製現場には何度も足を運んでいるのですが、シューズの製作現場には初めてお邪魔するので道中から少々興奮気味の僕。
先日プレス向けに開催した2010 Spring/SummerシーズンのExhibitionにて、コラボレートモデルの新作、特にトリプルモンクストラップとブラック&ホワイトのチェルシーブーツの評判が抜群だったことを報告したり、今井さんがイタリアでレザーについて学んでいた時のエピソードを聞かせてもらったりしているうちに到着。

今井さんのアトリエは大きな敷地の中にありました。
それもそのはず、今井さんは靴工場の4代目で、先代までは既製品の大量生産も受けていたのです。
しかし、先々代から受けた薫陶やイタリアでの勉強の成果から、「美しさ」と「機能性(履きやすさ)」の両面で世界最高レヴェルのシューズを世に送り出したい!と決意し、今井さんを含めて3人の職人でImai Hirokiブランドを立ち上げたのです。
そして、既製品の受注は基本的にやめて、オーダーメイド用のラインに切り替えて現在に至るわけです。

まずは、レザーのストックスペースを拝見。
今井さんが今までトライアルしてきた魅力的なレザーが次々に出てきます。
カモフラパターンやハラコには思わず興奮!
かつてイギリスのブランドに携わってデザイン関係を勉強していた時に「まずは素材から」と指導を受けたことを思い出しました。
今井さんも先々代から「まず革の勉強をとことんしなさい!」と指導されたようです。
何をデザイン、プロダクトするにしても、まずはマテリアルありきですからね。
小一時間ほどいろいろと説明を受けながらレザーを見たのですが、やっぱり楽しいものですよねぇ、素材を見るのって。
激しく感性が刺激されます。

次に製作工程を案内してもらいました。
ツリのやり方やマッケイミシンや各種の道具なども見せてもらいました。
やはり、量産品と違ってそこここに手間が掛かっていました。
日産がたったの数足という事実もうなずけます。
ちなみに、スーツやシャツと基本的なフロー、つまり、パターン(ラスト)の決定、素材の裁断、パーツの作成、素材(レザー)を馴染ませるためのエイジング、最後に全体をつなぎ合わせて仕上げるという流れは同じなのですね。
大きく違うのは最後に色を付けるというところぐらいでしょうか?

そして展示ブース(?)に移動。
ヒールが無いシューズ(!)や、水彩画のような蜘蛛の絵がトゥに入ったシューズや、紐をランダムに巻きつけてから染めることでセクシーな濃淡を付けたシューズの試作品が目を惹きました。
思わず「攻めてるなぁ!」と独りごちてしまいました。

最後にコーヒーをいただきながら歓談。
岡田(以下岡)「どんなシューズが理想なのですか?」
今井さん(以下今)「美しいシューズ、それでいて履きやすいシューズです」
岡「美しいことと履きやすいことは相反するのですか?」
今「例えば、どちらかといえばフランスのシューズメーカーは履きやすさより美しさを追及しているように思えますし、イタリアのシューズメーカーは美しさよりも様々なアイディアで勝負しているように思えます。イタリアのシューズはアイディアが散りばめられている分とても面白いのですが優雅な美しさには劣る気がします。一方で、フランスのトップメーカーのシューズは極めて美しいのですが丈夫さや力強さに欠けるきらいがありますし、履きやすさに問題があるという話もよく耳にします。そういった意味では、美しさと履きやすさの両立は難易度が極めて高いと思います。相反するとまではいいませんけれど。また、オーダーメイドシューズの場合に、お客様の足の形に合わせすぎると美しさが損なわれる、逆に美しさを追求しすぎると足に合わないというケースが出てきがちな事実も見逃せません。」
岡「なるほど、では、イギリスのシューズメーカーはどうですか?」
今「質実剛健な作りをしていますよね。逆にその点が優美な美しさにおいてはマイナスに作用しているように思います。でも、その無骨さがイギリスのシューズの秀逸なところなのだと思います」
岡「つまり、フランスのトップメーカーのような比類なき美しさと同時にイギリスのシューズのような力強いパフォーマンス、そして、ここにある遊び心溢れる試作品のように時としてイタリア的なアイディアも散りばめたシューズが理想といえるのでしょうか?欲張りですね(笑)」
今「単にヨーロッパのコピーをしていてもあちらで評価されることはないですからね、岡田さんもそう感じませんか?」
岡「確かにそうですね!僕もイギリスの服作りの模倣をするだけでは話にならないと思っています。今井さんがそのために一番こだわっている部分はどこですか?」
今「一番はラストです。ラストの研究には時間と労力を惜しみません。それにお金も(笑)」
岡「なるほど。確かに洋服もパターンが重要ですもの。現在の基本的なラストも長期間かけて研究したのですか?」
今「そうですね。カタチにするまで2年以上はかけました。例えば内ふまずの距離などは多くの試作をして、自分たちの足で確かめて決めました。そして、その後も改良を続けているのが現状で、まだ頂きは見えていない感じでしょうか」
岡「そうですか。お互い勉強が続きますね・・・それから、やはり今井さんといえば“カラー”ですよね?僕も感動したのですが自由自在にカラーを生み出す力量は感嘆さすがですね!」
今「地元での修行とイタリアでの修行、とにかくレザーについて徹底的に学んだ経験が活きています。手前味噌ながらカラーについてはかなりの自信を持っています」
岡「それは僕も納得です。それでは、頂きに着々と近づいているラストと既に頂きにいるといっても過言ではないカラー以外に課題はありますか?」
今「クリエイティヴィティでしょうか。やはり長年シューズだけをやってきているので、規格外の発想などがなかなか出てこないのです・・・ということで、岡田さんのアイディアに期待します(笑)」
岡「誠に恐縮です(笑)そして頑張ります」
今「それから、具体的なプランはこれからなのですが、若い人たちがひとり立ち出来るようなサポートシステムも将来は構築したいです」
岡「職人さんらしい発想ですね。初代から今井さんまで連綿と続いてきた職人魂を永く、そして太く後世に残したいということですね。僕にはそういう発想がないのでとても新鮮です!でも、今井さんもまだまだ若いのにね(笑)」

などと、延々と話し込んでいたら、すっかり夜になってしまいました・・・
とても楽しい時間でした。
加えて、「皆さん大切な方だと思いますが、敢えて挙げるならどんなお客様が理想的ですか?」などという愚問をぶつけたら、ちなみに僕なら「PAUL WELLERかなぁ?」などと答えると思います、今井さんは「そうですね、1足目の納品後1年たったくらいに次のオーダーが入ったときが最も嬉しいでしょうか。というのも、1年後の再オーダーというのは、じっくり履いてみた後に僕のシューズをいいと感じて下さった証左ですから」という素敵な返答をしてくれたのも印象的でした。

ともあれ、Exciting Tailoringを標榜するA WORKROOMとしてはベストな職人さんと出会えたことを自分の目と耳とハートで確かめることが出来ました。

宣伝みたいになりますが、2010年1月31日(日)〜2月1日(月)に、3度目の今井さんを招いての受注会を開催しますので、皆さんもぜひいらして下さい!

ということで、職人に会いに行く 〜その(1)〜 でした。
職人に会いに行く 〜その(2)〜 はまたいつか。
いや、その前に2010年はこのコラムをもっと頻繁に更新するつもりです!

最後に何の脈絡もなく2009年の私的ベストディスクを紹介させてもらいます。
2009年も新旧の音源を合わせて数百枚のCDおよびLPを購入しましたが、新譜に限っていえば、THE GROOVERSの新作Route 09が一番聴いたアルバムでした。
最後に収録されているLonesome in a crowdが紡ぐ儚くも美しい風景は葉筆舌に尽くせません!

TEXT by 岡田亮二(A WORKROOM代表)